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 文化祭が終わり、学校生活は段々と平凡な日々に近付いていった。私達の気持ちも落ち着き、受験へと向かい始めたところだ。昇降口から校門へ向かうと、隣に誰かが並ぶ。もう二年間クラスが同じになる及川だった。及川は自然と歩幅を合わせると、何気ないように口を開いた。

「そろそろ付き合おっか」

 その言い方に私は違和感を抱く。及川の言い方では、私が付き合うことに合意しているみたいだ。

「私及川のこと好きじゃないよ?」

 重要とも言えることを及川のように軽々しく言えば、及川は目を丸くしてこちらを見た。

「は? お前好きでもない男の相談毎日乗って励ましてたの?」
「うん、及川は良い奴だから」

 及川は驚いたというより呆れた様子だった。顔に手を当てて項垂れて見せる。その内心は少なからず両思いだと思って接していた羞恥心のようなものがあるのだろうか。私の何がそう思わせたのかはわからないが、及川には悪いことをしてしまった。しかし、相談に乗るくらい友達でもするのではないだろうか。私の内心を読んだかのように、及川は「でも異性だろ」と恨みがましく呟いた。

「お前の狂った価値観俺が正してやる」

 及川に睨まれ、私は率直に言葉を発する。

「どうやって?」
「男とは何かを教えてやるんだよ!」

 そう叫ぶ様子はとても進路に悩む高校生の顔ではなく、悪戯をしようとする男子のそれである。及川が異性としての何かを教え込もうとしているのは明らかだった。

「それ付き合うのと同じじゃん!」

 私が言うと、及川はさらに言葉を重ねる。

「エロい想像してんじゃねー!」

 まるで小学生のような言い合いしかできない私達に恋愛はまだ早いのかもしれない。それでも隣に及川がいなくなったら、私は一丁前に寂しいと思うのだろう。