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「あはは、なんか最近侑といるのが楽しくて仕方ないや」

 私は腹を抱えて天を仰ぐ。私は、侑のことが好きだった。あわよくば侑の彼女の座にありつこうと、何度もアピールをしては砕け散った。そのうちに学習するようになったのだ。侑には何をしても届かないと。顔か、性格か、はたまたスタイルかわからないけれど、私は侑の条件を満たしていない。だから侑が私を好きになるなんてことはないのだ。理解した瞬間、肩の力が抜けた気がした。不思議と悲しみは薄く、もう無謀な賭けをしなくてもいいのだという安心感があった。その時から、私は初めて侑と対等に接することができるようになったと思う。下心なく侑とやりとりするということは、こんなに楽しかったのか。私は宮侑という人間の真髄に触れた気でいた。今までの私は侑のことをわかっているようで全然わかっていなかったのだ。侑の彼女になるという夢は諦めたが、何の望みもなく気軽に侑と話す楽しさは初めて知った。

「全部諦めたら、すごい楽になったや」

 今の私の笑顔は作られたものなんかではない、心からの笑顔だ。本当はこれくらい晴々しい表情で侑にアタックしたかった。でも侑のことを諦めないと本気の笑顔は出てこないのだから、難儀なものだ。侑を見ると、侑は何故だか手を口元に当て気まずそうな表情をしていた。

「その……なんていうか、俺はお前のこと好きになってしもたんよな」
「は?」

 私は思わず動きを止める。侑が、私のことを好きになった? 以前何をしても揺るがされなかった侑に、そんなことが起きるのだろうか。

「いや、お前俺のこと諦めてから変わったやん? 一皮剥けたっていうか……そのお前見てたら、なんか好きやなって」

 何でこんな告白せなあかんのや、と零しながら侑は独りごちた。つまり、侑に媚びている私は好きではなかったが、自然体の私は好きだということだろうか。そうなると両思いはほぼ難しい。というか、私は既に侑を諦めている。

「どうしてくれんの? 私あれだけ自爆したから望み捨てたんだけど」
「お前にはほんま悪いと思っとる……また俺のこと好きになるとかあらへん?」

 ほら、俺イケメンやし。そう言って自分の顔を差す侑に、ときめきではなく苛立ちが生まれた。いくら何でも都合が良すぎる。私が侑を再び好きになることは難しそうだが、そうなると下心のない私に侑が片想いすることになるので、まあいいか。