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「この子は聖臣に似るといいな」

 顔を上げた聖臣に「私に似たらバレー選手になれないから」と言うと、聖臣はわかりやすく顔をしかめた。

「無理やり子供をバレー選手にする必要はないだろ」

 聖臣は、生まれてくる子供を自分と同じ道に進ませたいとは思っていないらしい。俺と子供の人生は別、など聖臣の思いそうなことである。とは言いつつも、聖臣は得意げな表情を浮かべた。

「まあ、女の子なら俺に似た方がいいな」
「何で?」

 私が尋ねると、聖臣は馬鹿にするような声色で言った。

「お前みたいに馬鹿丸出しでそこらの男に惚れたら困る」

 それは遠回しに私が聖臣を追いかけ続けたことを言っているのだろう。聖臣が好きだということを隠しもせずに構い続けたが、馬鹿丸出しと言われる筋合いはない。というか、その日々あっての現在ではなかろうか。

「馬鹿じゃないし! ていうか聖臣もそこらの男じゃありません! 聖臣だったから惚れたんです!」

 私が言い返すと、聖臣は呆れたように呟く。

「そうやって盲目に好きになられると困るんだよ……」
「ねえそれ父親として言ってる? 旦那として言ってる?」

 父親として子供が惚れっぽいと困ると言うならわかるが、旦那として言っているなら困るのはこっちだ。結婚しようが子供ができようが、私は聖臣を目一杯愛するつもりである。今更「困る」など言われても仕方ない。

「どっちもだ。俺と家庭を築くなら少しは俯瞰してものを見られるようになれ」

 そう言いつつも、私が他の男を見たら怒るのは聖臣だろう。私はわざとおどけてみける。

「聖臣が格好いいことしかわかりませ〜ん」

 すると聖臣は側頭部を押さえて呟いた。

「お前似の女の子より俺似の男が生まれた方が大変だな……」

 もしかして今嫉妬した? わざとらしく私が尋ねると、「うるさい」と顔を背けられる。健診に行って、性別がわかる日が楽しみだ。