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 井闥山学院バレー部が全国優勝を成し遂げてから噂は急速に広まった。中でもエースの佐久早には人気が集まり、毎週のように中庭に呼び出されている。正直クラスの地味な奴だった佐久早がシンデレラロードを辿っているのを見ることは面白いのだが、佐久早本人は疲弊している様子だ。たまらずに私は口を開く。

「ならもう恋愛はしません!って公言すればいいんだよ」

 佐久早は、告白を全て断っていた。どれだけ可愛い子でも、人気のある子でも。佐久早の性格からして恋愛に積極的ではないのは明らかだ。最初から公言してしまえば、無駄に疲れることもないだろう。しかし佐久早は冷静に言った。

「それは俺が恋愛する時に困る」
「え、佐久早恋愛するの?」

 佐久早の口から出た「恋愛」という言葉に思わず反応する。佐久早は誰とも付き合う気がないのではなく、相手が誰かを見定めて断っていたのだ。驚く私を見つめて、佐久早は「俺がしたら悪いのか」と尋ねた。

「悪くないけど……」

 歯切れ悪い私の言葉を遮るように、佐久早が続ける。

「要は好きな奴にだけ恋愛してることを伝えてそれ以外の奴には興味ないふりをしとけばいいんだろ。ならもうやった」

 私達の間に暫し沈黙が訪れる。佐久早は普段恋愛に興味がないふりをしている。好きな人にだけ恋愛していることを伝える。そして私はついさっき、佐久早も恋愛するということを知らされてしまった。

「佐久早今告白した?」

 思いのままに口を開くと、佐久早は「したかもな」と視線を逸らした。自意識過剰と笑われるかとも思った発言だったが、真実を突いていたようだ。

「返事どうしよう……」

 私が呟くと、佐久早は面倒臭そうな顔をして「俺に相談するな」と言った。確かにその通りなのだけど、佐久早が唯一教えてくれたことを他の誰かに相談する気にもなれなかった。