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 影山君を呼び出すと、影山君は雰囲気で察したらしかった。普段鈍いのに鋭い時もあるものだ。特段照れるようなこともなく、まるで業務連絡のように尋ねる。

「あの、もしかして俺に告白しようとしてますか」
「えっ? あ、うん」

 その言葉にこちらが照れてしまった。折角告白しようとしたのに先に言われては仕方ない。遠回しにやめてほしいと言いたいのだろうか。影山君は少なからず私のことを好きだと思っていたのだけれど、思い外れだったようだ。もはや告白すら諦めようとした時、影山君が言葉を続ける。

「じゃあ試合の後でもいいですか。今苗字さんに告白されたら、多分集中できなくなると思うので」

 私は勢いのままに頷いた。頷いたが、それまで感じていたフラれるという気配は限りなく薄くなっていた。私は告白したら、影山君を惑わせるくらいの存在なのだろうか。集中できなくなるとは、一体どういう意味で? 尋ねられないまま、試合が終わるのを待つ。週明け、影山君は私を呼び出した。

「それで、俺と苗字さんが付き合う件についてなんですけど」

 その切り出し方に、私は思わず声を出す。

「待って、まだ決まってないけど」

 私は返事をされていないどころか、告白すらしていないのだ。気持ちは伝わってしまったと思うが、それにしても段階を踏ませてほしい。影山君は平然と口を開く。

「俺は苗字さんのこと好きなので」

 影山君から言われて嬉しいはずなのに、今はそれではないという気持ちが勝つ。

「だとしても言わせて!」

 付き合う前から、いやもう付き合っているのかもしれないが、最初から噛み合わない。これから上手くやっていけるのだろうかと、私は影山君との日々に思いを馳せた。