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 箱の中に私と閉じ込められたミスラは、まるで慌てなどしなかった。緊張もせず、脱出するそぶりも見せず、ただ怠そうに呟く。

「狭いですね」

 それはただ事実を言っているだけで、ミスラがどう思っているかはわからない。次いで放たれた「広げましょうか?」という言葉に、私は大きく――箱の中の体積が許す限り激しく、首を振った。

「いい! いいです」

 確かに、ミスラなら魔法で箱を大きくすることくらい容易いだろう。だが何故魔法を箱の破壊に使わないのかと思うと、途端に都合良く考えてしまう。

「でも困るでしょう」

 食い下がるミスラに、私は素直に答える。

「いえ、私はミスラとくっつきたくてこの箱に閉じ込められたので」

 そう、私達がこの箱に閉じ込められたのはハプニングなどではない。好きな人に近付くには物理的に近付くことから、と安易な結論を出し、ムルに魔道具を借りたのだ。ムルは私が何に使うかわかっていただろうが、成功しても失敗しても面白がるだけだろう。私の本意を告げてもミスラは呆れたような態度をとるだけだった。

「それ俺に言っていいんですか」

 私を慮る余裕があるなら少しは私の好意への反応もしてほしいところである。

「なりふり構いません」

 私が言うと、ミスラは気怠げに視線を横へやった。

「はぁ、多分告白とかされても困るだけなのでいいですけど」
「困るんですか?」

 私はミスラを見上げる。ミスラに社会性や協調性があるとは思えないが、魔法舎で暮らす中で恋愛は控えるべきだと思っているのかもしれない。あるいは、恋愛など面倒だと思っているのかもしれない。私の不安など知らず、ミスラは平坦に呟く。

「はい、お付き合いっていうのがよくわからなくて」
「オーケーではあるんだ……」

 できればその答えはもう少し劇的に知りたかった。だがそのようなことをミスラに求めてはいけないのかもしれない。私は目的を果たせたので箱から出てもいい旨をミスラに告げたが、ミスラが「別にいいじゃないですか」と言うので閉じ込められたままになった。