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 校門を出たところで私は幸郎を呼び止めた。幸郎は私の用が何であるかを察したかのように、部活の友達に先に行くよう言った。彼らは軽い返事をして先に歩いて行った。私は幸郎へ包みを取り出す。薄暗い街灯の光が、誇らしげなリボンを照らしていた。

「お誕生日、おめでとう」

 幸郎は包みを受け取り、手触りを楽しんでいるようだった。ここで開けてもよかったのだが、幸郎は後にとっておくと言う。

「ありがとう。もし名前ちゃんと別れることがあったら、これを思い出にするね」

 私は複雑な気持ちになった。思い出になれるほどのものをあげられたのは嬉しいが、別れた後のことを考えてほしくない。これは幸郎なりの賛辞なのだろうか。だとしても、手放しには喜べない。

「そういうつもりであげたんじゃないけど」
「あはは、俺は別れても捨てないタイプってことだよ」

 私が唇を尖らせると、幸郎はおおらかに笑った。別れた後の話を受け入れられない私との心の余裕の差を知らしめられているようで、余計反感を抱いた。

「実際便利だよね。形のあるものを貰えば、別れても、最悪相手がこの世にいなくなっても、愛された証拠がある」

 幸郎は読めない瞳で続けた。交通事故や急病の可能性があるとはいえ、私達はファンタジーの世界の人物ではない。死んだ後のことを考えるのは、高校生の私達らしくない気がした。別れた後のことを考えてほしくないように、私は死んだ後のことも想定しないでほしい。用意周到と言えば聞こえはいいが、それは悲しさの準備をしているだけではないだろうか。幸郎はふと表情を緩めた。

「別れた後のことを考えるのが嫌だって言うなら、形のないものをちょうだい? 俺に今を教えてよ」

 幸郎がどこまで本気だったかはわからない。「形のないもの」をねだるための前置きとして言ったのかもしれないが、それにしては真剣みを帯びていた。いずれにしろ、幸郎に従う以外の選択肢はないのだ。

 私が頬にキスをすると、幸郎は「ありがと」と言って笑った。その表情の奥で死んだ後のことまで考えているのだと思うと、底なしの闇に捕らわれたような気持ちになった。