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「は〜どうしようかなぁ」
私がわざとらしくため息をつくと、隣に座っていた五条が頬杖をついてこちらを見上げた。白髪の間から怠そうな目が覗いている。
「ヤらせてくれんなら話聞くぜ」
五条にとってはここが教室だということなどどうでもいいのだろう。確かに今は先生も生徒もいないが、学舎でそういった発言は憚られる傾向にある。夏油がいたら優しく五条をたしなめただろうが、彼が不在の今は私が相手をするしかなかった。
「正直すぎて清々しいね」
私が言うと、五条は反省した様子もなく宣う。
「相談乗る男とかほぼ体目当てだろ」
確かに、弱っている女子に近付く男が体目当てとはよく言われているところだ。私達ももう大人に近い年齢であるし、相談に乗ってもらうにはそれなりの対価を払わなければいけないのかもしれない。元々タダで話を聞いてもらおうとした私が間違っていたのだ。
「じゃあ話聞いてもらおうかな」
「えっ」
私が話の舵を切ると、五条は驚いた様子で顔を上げた。自分から言ったくせに、何故意外そうな顔をするのだろう。
「何よ」
五条は目を瞬き、新鮮な表情をして問う。
「ヤらせてくれんの?」
この際言い方があからさますぎるということはどうでもいい。五条はそういった話し方しかできないのだ。対して私は直接言葉にする勇気がないから、五条に読み取らせているというだけで。
「そっちが言い出したんでしょ」
私は照れ隠しのようにそっぽを向いた。隣からは、戸惑ったような声が聞こえてくる。
「でも実際にやるとは想定してなかったっつーか、お前とできるかな」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。五条は友人である私とすることに困惑していたのではない。私で興奮できるかどうかを懸念していたのだ。これには私の女としての矜持が削られてしまう。
「は? 私じゃ勃たないってわけ? いいよ試してあげるから」
私が立ち上がると、五条は逃げるように体を引いた。
「お前相談はどこ行ったんだよ!」
最初にヤらせろと言ったのは五条のはずなのに、今や五条が相談にこだわっている。不揃いな感覚を抱きながらも、それを打ち消せるのは一つの行為しかないのだ。五条が逃げていると、私が五条に勝ったような気分になる。一時のみの優越感を持って、私は五条に近付いた。
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