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「好きです。付き合ってください」

 私の告白に対し、佐久早の返事は淡白なものだった。

「ダメだ」

 そう語る顔はいつも通りで、まるで私にダメ出しでもしているかのようだ。一応私は真剣に告白をしているのだけど、佐久早には伝わらなかったのかもしれない。佐久早に真剣に向き合ってもらえなかった時点で、私の負けなのだ。

「そっか、私じゃ無理だよね……」

 私は撤退する気配を出しながら呟く。早くこの気まずい会話を終わらせて、日常へ戻りたいのだ。これくらい堂々と断られたのなら、後にも引きずらずに諦められる気がした。

「いや待て。お前の今の状態は俺を好きだと言わねぇだろ」

 次いでかけられた言葉に、私は困惑して立ち尽くす。今、会話を終わらせる雰囲気ではなかっただろうか。佐久早は私の好きという気持ちすら否定するのか。私の動揺も知らず、佐久早は言葉を続ける。

「お前この間クラスの男子に上着借りてたよな」
「あれは寒いって言ったら向こうが貸してくれて」

 取り調べを受ける罪人にでもなったかのような心地になる。私の渇いた口はしどろもどろに言葉を紡いだ。だが佐久早の攻撃は止まらない。

「他の奴と腕で突きあいながら話したりもしてただろ」

 佐久早は完全に私を責めるつもりだ。付き合っているのならともかく、何でもない、ましてや告白されている立場の佐久早に言われる筋合いはない。

「それは友達ならやるじゃん!」

 私が反抗する素振りを見せても佐久早は動じない。瞳の奥に炎を強く燃やしたまま、私を見据えて離さない。

「俺を本気で好きならしねぇだろ、そんなこと」

 その言葉からは、少しの劣等感が窺われた。佐久早は私にそうすることを期待していたのだろうか。いずれにせよ、私の行動を佐久早が惜しんでいることは事実だ。

「……もしかして佐久早嫉妬してるの?」

 さらに怒られてもいい。私が問いかけると、佐久早はさらに眉を吊り上げた。

「してない。俺のことが好きなら行動を改めてまた告白しろ」

 していないと言っているのに、告白しろと言うのはおかしな話だ。それでは私のことが好きであるようではないか。

「チャンスをくれてるの?」

 さらに突っ込むように尋ねると、佐久早はそっぽを向いて「うるさい」と言ってしまった。これは二度告白しても鬱陶しがられなさそうだ。私は佐久早のために、他の男子と距離を保つ決意をした。