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「好きです」

 平然とのたまった影山君に、私は眉をひそめた。

「それ今言うこと?」

 今は三年の自由登校期間であり、私は書類手続きのために学校に来ている。公立志望の生徒はこれからだが、私の受験は既に終わったのだ。それも、つい昨日。パソコンの画面に表示された試験結果は、なんとも無機質なものだった。

「受験前に言って混乱させたらいけないので」

 そう言う影山君は私の受験が終わるまで律儀に待っていたのだろう。褒めてもらおうとする犬のような表情をしている。実際、何かと鈍い影山君にしてみれば受験直前に告白しないという選択は良くできたものかもしれない。だが直後もまた、感情的になっているものなのだ。

「だからってたった今落ちた人に告白するか普通!」

 こうして叫んでしまうことすら情けない。私の嘆きに動揺することなく、影山君は首を傾げた。

「返事はノーなんですか?」

 影山君は私と付き合えるかどうかしか考えていないのだ。私が受験に落ちたことなどまるで気にしていない。その清々しさが羨ましくなった。影山君が三年になっても、彼はスポーツ推薦を使うかそもそも進学しないかで受験に悩むことなどしないのだろう。フラれたと思い込んでいる影山君に、私は視線を鋭くした。

「第一志望落ちたんだから彼氏くらい作らせろ!」

 乱暴な物言いだというのに、影山君は嬉しそうに顔を綻ばせた。もし受験に受かっていたら影山君と付き合うことも素直に喜べていたのだろうか。そうは思いつつも、私と付き合うことしか考えていない影山君を見ると馬鹿らしくなってしまうのだった。