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強い日差しが肌を焼く。灼熱の太陽の下、私と侑は連れ立って自宅近くの道を歩いていた。何でもない日常のようで、数年前までは同じ状況に大慌てしていたのだから変なものだ。目当てのコンビニまで半分ほどの距離を進んだ頃、侑が唐突に口を開いた。

「ごめんな」

私は思わず振り返って侑を見た。高校時代よりもさらに明るくした金髪が、陽の光を浴びて輝いている。いつもは愉しそうに細められている目が、今日は何も語らずに開かれていた。

「ごめんって、何が」

私の横で街路樹の葉が落ちる。むき出しの腕に触れた葉は薄く、柔らかかった。

「俺、ほんまはこのまま付き合ってるだけじゃいつか名前が離れてくんやないかと思って、繋ぎ止めたくて結婚した。名前のことを疑ってた。そんでもう逃げられないようにしたくて、結婚した」

侑は私の目を見て真っ直ぐに言った。私は呆然と見つめ返した後、我に返ったように前を向き直した。

「そら彼氏と別れるのは簡単でも、離婚は簡単やないからなぁ」
「そう思って結婚したんや。ほんま、ごめん」

私は自分の足元を見た。先程落ちた葉がアスファルトの上に着地し、死んだように横たわっている。いつかは人間に踏まれぐちゃぐちゃになってしまうことだろう。私と侑もそうなってしまう前に離れられればよかったのかもしれないけれど、侑は何が起きても付き合っていく方向で努力をするしかない結婚という道を選んだ。その行く先だけを聞けば嬉しく感じるのに、素直に喜べないのは何故だろう。

「……怒っとる?」
「わからん。強いて言えば、結婚したことを謝られることにムカついとる。侑は私のこと、好きやなかったんかって」
「ごめん」

言ってから、まるで侑は私のことを好きでないわけではないと否定させるような口調になっていることに気付いた。だが私は今更侑に私のことが好きだと保証してほしいわけではないし、それは侑も分かっている。だから侑は何も言わなかった。好きだと言わないのが愛情の証だというのは、なんだか変なものだ。

「侑が人でなしやっちゅうことは昔から知っとるから、今更大したショックは受けへんよ。でも、疑われてたんは心外やなぁ」
「お前わりと短気なとこあるやろ、俺ら高校時代から何回付き合って別れて繰り返してきたと思ってん」
「誰のせいやねん」

私が睨むと、初めて付き合った際私とのデートをすっぽかしてバレーをしていた挙句集まってきたファンの女の子にいい顔をしていたこの男は視線を逸らした。これから先も、私はこうして都合が悪い部分を誤魔化されていくに違いない。その度に別れたいと思っても、私は結局侑の元に戻ってしまうのだ。私の人生に巣食う宮侑という名の蟻地獄に、今日も吸い込まれてゆく。