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 銀時、と声をかける前に銀時は背を向けてしまった。私が眉を下げる様子が見えているかのように、銀時は背中越しに語る。

「俺はお前に合わせる顔なんざ持ち合わせちゃいねーんだよ」

 銀時が先生のことを言っているのだということはわかった。銀時は先生を救い出すため戦争に参加し、結果としてそれを成しえなかった。先生が死んだという知らせが届いたわけではないが、攘夷四天王と呼ばれた銀時達が戦線から離脱したこと、銀時達が松下村塾に帰ってこなかったことを考えれば結末は予想できた。銀時は、私が先生を好きだったことを知っている。私は銀時が私を好きだったことを知っている。だから銀時は、自分に私と顔を合わすことを許さないのだろう。

「私が会いたいって言っても?」

 仮にも、十年ぶりに会った幼馴染である。銀時は私の言葉を尊重してくれるのではないかという希望は呆気なく潰えた。

「俺に好かれてんのわかってんのに軽々しく期待持たせるようなこと言うなよ」
「……まだ好きでいてくれたんだ、意外」
「そりゃ別の女の所に逃げたり名前も知らない女抱いたりしたさ。けどお前に会っちまったら、まだお前が好きだって嫌でも思い知らされる。そうやってお前に戻ってくるたびに、俺は自分が脇道にそれてたことを悔やむしかねェのさ」

 私に会わなければ、銀時は他の女の所に行った人生を肯定できたのかもしれない。しかし私のことがまだ好きだったとわかれば、他所の女を抱いたことは銀時にとって汚点でしかないだろう。私が何をしても、多分銀時を苦しめる。私が何もしなくても、銀時は苦しみ続ける。

「一緒に苦しむことさえもさせてくれないのね」
「生憎俺の地獄は一人用なんでね」

 銀時が歩き出す。銀時が行ってしまう。どこかはわからない。ただ、最終地点が地獄であることは間違いない。

「もし生まれ変わったら、来世の私はきっと銀時を好きになるから!」

 私の言葉に銀時は力なく笑って振り返った。

「生まれ変わってもお前のことは忘れられそうにねェや」

 今世で銀時と私が言葉を交わしたのは、それが最後だった。