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 外面がいいのがこの男の数少ない長所である。喧し豚などと言っていたことを考えると決して上品とは言えないのだが、何しろ顔がいいのだ。

「あのミヤアツ!?」
「実物超イケメンやん!」
「どうやって落としたんこんなハイスペ!」

 侑を実家へ連れてきた私は、途端に沸き上がる親戚に辟易していた。今日の侑だけを見たら完璧人間のように思えるかもしれないが、その人物は三日連続食器を水につけておかないで私に怒られているのだ。侑は得意げな顔をして私の隣に立っている。私は対抗するように声を張り上げた。

「全然違うから! 侑は優しくないし扱い雑だしガキだし取り柄と言えばバレーと顔くらいしかない男だから!」

 親戚は侑を持ち上げすぎなのだ。ここで私が「その通りです」など言っても日本人らしくない。普段の侑への鬱憤も含め、否定するくらいがちょうどいいだろう。

「またまた〜」という声が返ってくるのかと思いきや、反応したのは意外な人物だった。

「じゃあ名前ちゃんは何で好きやない侑さんと結婚するの?」
「えっと……」

 私の目の前で首をもたげているのは、親戚の幼稚園児である。幼い彼には謙遜や貶し愛といったことがわからないのだろう。困り果てた私の代わりに、侑が腰を屈める。

「お姉ちゃんはほんまは俺のこと好きやけど照れて言えないだけなんやで。好き同士やから大丈夫や。安心して結婚式出席してなぁ」

 私が言いたいこと、しかし恥ずかしくて言えないことを、さらりと口にしてしまった。しかも結婚式の招待まで添えて。窮地を救う侑の一言に、親戚一同はまた「格好いい〜!」と声を揃えた。侑の外面がいいのは気に食わないのだけど、今回ばかりは私も同感してしまったので、黙ることにする。