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 二人で白い煙を見ていた。それは人間の魂と言うにはあまりにも俗らしく、ただの廃棄物と言うには情がかけられていた。もしかしたら煙は私達を納得させるためにあるのかもしれなかった。もはや何をしても変わらない現実を、故人のために尽くしたという体で綺麗に塗り替えようと、残された者は必死なのだ。涙は既に引いており、突き刺すような日差しが私の目を乾かした。みずみずしい肌を太陽に晒しながら、飛雄が口火を切った。

「結婚しよう」

 言葉にはとても似合わない状況だったが、それをからかう気にもなれなかった。人の死とはセンシティブなものである。深い感情に突き動かされた飛雄が、何らかの変化を起こしていてもおかしくはないのだ。

「今?」

 確かめるように私が言うと、飛雄はどこかまだ魂を抜かれたような雰囲気のまま話した。

「俺、なんとなく結婚はしなくていいと思ってた。でも名前に何かあった時家族じゃなきゃ俺は病室にも行けないんだ、逆に俺に何かあった時俺は名前の生活を保障することができないんだって思ったら、我慢できなかった」

 飛雄が言っているのは、今日の主役――ひとつ前の監督が倒れた時のことだろう。当日同じ場所にいた私達も駆けつけたが、立ち合いは家族のみだった。私達は急いで奥さんに連絡をし、到着するまでの間祈りを捧げた。最後監督は妻に看取られて息を引き取った。私達はその様子を、奥さんの口から聞いた。天寿とも言える歳だからか、彼女の涙には諦めの色が滲んでいた。

 本当は、幸せになるためにプロポーズをしてほしかった。交際だけでは収まらない愛を昇華する手段として結婚があると思っていた。しかし、時に人は不安に唆されて未来を決めるのかもしれない。

「四十九日が終わったら、監督に報告しに行こうね」
「ああ」

 青に白が重なる。私達のどちらかも、先に煙になる。