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 二月も半ばを越え、残るは学年末テストのみとなった。すっかり学業に心を向けている私に対し、佐久早は不満げだった。春高も終わったというのに何が引っかかっているのだろうか。こういった場合、佐久早は「どうしたの」と聞いてやらなければ話さない。それまで思わせぶりな態度を取り続けるのだ。私が尋ねると、佐久早は待っていたかのように口を開いた。

「バレンタイン」

 その言葉で、私は佐久早が何日も前から気を揉んでいたことに気付く。今年のバレンタインは別に何もなかったはずだ。私の内心を見透かしたかのように、「何で何もなかったんだよ」と佐久早が言った。

「バレンタインって告白するためのものでしょ? 付き合ってるからもういらないと思って」

 バレンタインとは女子が男子に想いを告げる行事だ。多くの場合、そこには告白が含まれる。しかし私達はもう告白を済ませてしまったのだ。両思いであるとわかっている以上、チョコを贈る必要はないと思った。佐久早は頭上から睨み上げるかのように、顎を引いて視線を厳しくする。

「両思い同士でも毎日好きと言え」

 あまりの暴論に、私は思わず口を開く。

「毎日!? ていうか佐久早は好きとか言わないじゃん!」

 そう、佐久早は恋愛に淡白なのだ。私のことを好きなくせに、そのような気はありませんよという面をして歩いている。よく人のことを言えたものだ。声を荒げる私に対し、あくまで佐久早は冷静だった。

「俺が言わないのはいい。けどお前は言え」
「なんかそれ不公平……」

 何というジャイアニズムだろうか。私とて佐久早に好きと言われたい。佐久早のように堂々と要求する勇気がないだけで、私も恋人と甘いひとときを過ごしたいのだ。横目で見ると、佐久早はふてぶてしい表情をしていた。

「お前が俺に惚れてきたくせに公平なはずあるか」

 それを言われれば私は何も言えなくなってしまう。今でこそ佐久早も私のことを好きだろうが、先に好きになったのは私だ。好きの度合いも私の方が上だろう。私達は平等ではないのだ。

「佐久早だって私のこと好きなくせに!」

 悔しまぎれに叫ぶと、佐久早は「フン」と言って横を向いた。腹立たしいと思うのに、この甘えん坊のために今からでもチョコを用意しようと思う私は重症だ。