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 東の魔法使い達の任務に同行した際、私が鈍いせいで呪いを喰らいそうになってしまった。実際それは私にかかる勢いだったのだが、寸前のところでネロが私を突き飛ばし、代わりに犠牲となった。小さな呪いとはいえ、申し訳ないことに変わりない。一日魔法が使えなくなったネロは、私が何度謝っても「いいよ」と言うのだった。それでも私がばつの悪い顔をしていると、「謝るんじゃなくて、ありがとうって言ってくれよ」と言うので、私は漸く正気に戻った。

 ネロの呪いも解け、私はどうやってネロに礼をするか考えている。代わりに呪いを受けたというのは、言葉で伝えるだけでは不十分だろう。談話室にて私が唸っていると、「どうしたんだ」と渦中の人物が近付いた。

「お礼にネロへ料理を作りたいんですけど、プロのネロに私の料理を出すのが恐れ多くて」

 別にネロ本人に聞かれて困る悩みではない。私がお礼をしたいと思う気持ちには少なからずネロへの恋慕が混ざっているが、それもネロの知るところだ。ネロは嘆息すると、私の向かいに腰掛けた。

「別に料理じゃなくてもいいだろ。あんたの得意分野で勝負すればいい。あんたは何が得意なんだ?」
「ネ、ネロを好きなこと……」

 反射的に口に出してから、羞恥で黙り込む。照れ臭いのはネロも同じのようで、私達の間に沈黙がおりた。ネロは私に好かれていることを知っているが、だからと言って直接のアピールをいなしたりからかったりするほど恋愛に器用ではないのだ。ネロは頭に手をやると、どこか遠くへ視線を外した。

「照れるなら言うなよな」
「すみません……」

 ネロにアピールするつもりはなく、咄嗟に出てきてしまっただけなのだが、結果としてネロの迷惑になってしまったかもしれない。私が縮こまっていると、頭上からネロの声が降ってきた。

「ま、そこまで言うなら試してもらおうか」

 私は思わず顔を上げる。戸惑う私に構わず、ネロは挑戦的な表情を浮かべてみせる。

「俺を好きだってこと、表現してくれよ。賢者さん」

 形成逆転、このピンチはチャンスになったと思っていいのだろうか。私の心臓の鼓動が、かつてなく速くなり始めた。