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結果から言おう。私達は誰が見ても両想いのまま大正時代で生涯を終えた後現代へと転生し、再び巡り合うことができた。それどころか前世からの想いを告白し、恋人同士になることもできた。これは何十年という時間がもたらした私達へのギフトかもしれない。前世では頑なに口を割らなかった二人も、転生すれば素直に好きだと言えるようになるのである。二人の恋路は順風満帆かと思いきや、交際が成立した一分後には名前は泣き出していた。

「一体何だってんだァ……」

実弥は慣れた調子で名前の肩を抱いた。勿論前世ではこんな近距離で触れることはなかったけれど、名前の機嫌を取るのが上手いのは努力の賜物だ。

「だって私、不死川さんと会うまで記憶なかったから他の男と付き合っちゃった……」
「別にいいだろうが」
「よくない!」

転生した時から記憶のあった実弥とは違い、名前は記憶がなかった。前世での知り合いである実弥と出会ったことで前世での記憶を思い出したのである。それまでは平凡な女子高生であったため、勿論恋愛もしていた。実弥と再会した時恋人がいなかったのがせめてもの救いだろう。実弥は別に気にしないのだが、名前に言わせると「よくない」らしい。

「不死川さんももっとこうさぁ……元カレ殺スみたいにならないの!?」
「俺ァ人間は殺せねェ」

意図せずして実弥を裏切ってしまっただけでなく、実弥の気にもかけない態度もまた気に食わないらしい。名前は実弥を睨み上げると、「不死川さんは今までに彼女とかいなかったんですか!?」と聞いた。敬語とタメ口が混ざるのは昔からの癖だ。

「俺はいねェよ」
「うわぁん!」

その言葉を聞いた名前がまた顔を覆う。その様子に実弥は呆れてため息を吐いた。

「お前は俺を好きなのか嫌いなのかどっちだァ……」

実弥がいながらも別の恋人を作ってしまったため実弥にも恋人がいた方が罪悪感が薄いという気持ちは分かる。だが名前のためを想って恋人を作らなかった期間を嘆かれると複雑な気分だ。名前としても自分の彼氏が女にモテているのはあまりいい気がしないのではないだろうか。それとも女子に人気の彼氏を持った方がステータスになっていいのだろうか。女子の気持ちは分からない。けれど多分名前の気持ちなら分かる。

「別に俺はそんくれェでお前のことを嫌いになったりしねェよ」

実弥が名前を引き寄せると名前は「不死川さん……」と言って実弥に体を寄せた。結構自然にやってしまったが、思ったより色々伝わってきて心臓が煩い。体温とか、鼓動とか、色々。

「私は多分……不死川さんがクラスの大半と寝てるビッチとヤってたりしたら嫌いになってたけどそんなことなくて安心しました」
「テメェは俺を何だと思ってんだァ」

優しく抱きしめていた腕が関節技の形に変わる。自分の腕の中で「ギブギブ!」と叫んでいる名前を見ながら、今世こそは名前を離さないでいようと実弥は決意した。