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 告白をした後、佐久早は降参を認めるように視線を下にやった。

「俺は本気の付き合いしかしたくない。お前は本当に俺が好きなのか」

 その言葉からは、佐久早の慎重さが窺える。佐久早はあまり恋愛に慣れていないのだろう。勿論私も手慣れているわけではないが、佐久早を安心させる程度のことはできると思う。

「勿論! 結婚前提でもいいよ」
「じゃあもし結婚した後に俺が死んだらどうする」

 私が意気込むと、佐久早は難題を投げつけた。私のことを試しているのだろう。私は得意げな顔をして答える。

「勿論後を追うよ」

 佐久早はテンポよく、「そこは幸せになれよ……」と言った。私は違和感を覚える。私が佐久早の幸せを願うことはあっても、佐久早が私の幸せを願うことがあるのだろうか。

「佐久早って私のこと好きなの?」

 何の気もなしに尋ねると、想像以上に喧嘩腰で言葉を返された。

「違う。告白してきた奴と将来のシミュレーションをして何が悪い」

 告白してきた人と将来のシミュレーションをすること自体は普通の行為だと思うのだが、結婚、それも未亡人になることを想定するのは行き過ぎている。

「佐久早って告白してきた人全員にそうしてるの?」

 もはやこの言葉が一種の駆け引きなのではないかと思いながらも、私は聞かずにはいられなかった。佐久早は上から目線であることを隠しもせずに返す。

「普段はすぐ断る。だがお前の場合は本気か怪しいからたっぷり検討させてもらう」

 そう語る佐久早は、私のことを値踏みする気満々だ。私は思ったままに口走る。

「それって私のこと好きなんじゃ」
「違う」

 素早く否定されたが、それ自体が怪しい要因に思える。とはいえ頑固な佐久早に気持ちを認めさせることなどできそうになく、私は途方に暮れた。