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 校門を出ると、授業を受けていなかった乾君が私を待ち伏せていた。少しの恥ずかしさを感じながらも、私は彼の隣を歩く。暫くの沈黙が続いた後、乾君は唐突に口を開いた。

「ココに何か言われたんだってな」
「ああ……」

 乾君はふと思い出したかのように言う。だが、その出来事は私にとって忘れられないことだった。

 「イヌピーがお前を好きだって言ってんだ。付き合え」

 雨の中現れたのは、乾君の友達――ココと呼ばれている人だった。乾君のみならず、九井君まで不良であるのは明らかだった。その証拠に、九井君は銃を私へ突きつけていた。私は九井君に言われた内容よりも、命の危険に晒されているという方が気になり、必死に頷いてその場をやり過ごした。九井君は「よし」と言うと拳銃を下ろし、どこかへ消えて行った。

「ちょっとびっくりしちゃった」

 恋愛として付き合うことだからまだよかったが、もし別のことを迫られていたらと思うと怖い。九井君が勝手にやったことだろうが、乾君も少なからず責任を感じていることだろう。乾君は謝ろうとしているのかもしれない。何気なく横を向くと、そこにはまさしく不良と呼べる乾君の表情があった。

「脅しは銃じゃ足りなかったか? どうしたら俺と付き合おうと思う」

 一瞬、思考が停止する。あれは九井君が勝手にやったことではなく、乾君の指示だったのだ。そして乾君は拳銃を使うような過激な行動をよしとしていた。全ては、私と付き合うために。九井君だけをぶっ飛んだ人だと思っていた私が間違いだった。乾君は儚げな美少年などではないのだ。

 私は逃げ道がなくなったことを悟りながら、必死に乾君を刺激しない言葉を探した。