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 佐久早に告白をすると、佐久早は予想していたような明るい表情はしなかった。何かを堪えるかのように、眉を寄せる。佐久早と仲が良いと思っていた私は、少なからず衝撃を受けた。暫くの沈黙の後、佐久早は重い口を開く。

「苗字『で』いいとか、中途半端な気持ちで付き合うのは失礼だと思う」

 そう語るくらいなのだから、友達として私のことを良く思ってくれているのは確かなのだろう。むしろ、私のことを大事に思っていないと出てこない発言だ。恋愛の勢いに押されず、相手のことを慮るのが佐久早らしい。

「俺がお前と付き合いたいって思うまで、待ってくれるか」

 結果として付き合えはしなかったが、これは決して後ろ向きな返事などではないだろう。私は快く承諾し、佐久早の気が変わるのを待った。


「あれだけ言っておいて振り向くの早くない?」

 佐久早が私を呼び出したのは、私の告白から三日が経った後だった。何ヶ月、いや何年でも待つ覚悟だった私は拍子抜けしてしまう。勿論嬉しくはあるのだが、心の整理がつかないところだ。

「告白されてから、お前のことしか考えられなくなった」

 佐久早は私に告げた。その表情は恥ずかしさを噛み殺しているようで、佐久早が私のために「らしくないこと」をしているのだとわかった。私がまだ何か疑っていると思っているのだろうか、、佐久早は言葉を足した。

「言っとくけど、他の女はすぐフるからな」

 フォローなのだろうか、その言葉に思わず笑ってしまう。

「じゃああの時点でオーケーみたいなものだったじゃん」

 すぐにフらず、一考の余地ありとした時点で承諾しておけばよかったのだ。私が反発すると、佐久早は「覚悟とか、色々必要なんだよ」と顔を逸らした。