▼ ▲ ▼

「好きだよ」

 昼神君の告白はシンプルなものだった。クラスで一目置かれている昼神君に好きだと言われたのだ。少なからず私は嬉しかったが、その気持ちには応えられなかった。

「私には好きな人がいるから」

 こう言えば、昼神君は素直に引き下がってくれると思っていた。昼神君は賢い人だ。私が直接的な言葉を使って昼神君をフりたくないことも察してくれるだろう。ところが、かけられたのは予想外の言葉だった。

「名前ちゃんに好きな人がいてもいいよ?」
「え?」
「具体的に誰? うちのクラス?」

 問い詰められ、私は言葉に困る。好きな人がいるというのは告白を断るための方便なのだ。実際に誰かを好きになっているわけではない。昼神君は気付かないのか気付いていないふりをしているのか、話を進める。

「頭のいい人?」
「う、うん」
「背が高い人?」
「まあ……うん」
「バレー部?」
「うん?」

 嵐のような質問に見舞われ、適当に答えていたら目の前に昼神君の満面の笑みが広がっていた。思わず後ずさりしそうになるが、昼神君がそれを許さない。

「なぁんだ、名前ちゃんが好きなのって俺だったんじゃん」
「えっと……」

 思いもよらぬ事態になってしまった。何も考えず答えたことが悔やまれる。昼神君は最初から自分に焦点を定めていたのだ。

「好き同士なんだから付き合っていいよね。今日からよろしくね」

 話についていけないまま、私達は付き合うことになった。反対するにも、自分の言葉を撤回するのは憚られる。この数分でどっと疲れた私に対し、昼神君はご機嫌そうだった。昼神君は好きな人がいるということが嘘だと気付いていたのだろうか。全てわかっていた上で、誘導尋問をしたのだろうか。まさかな、と思って頭を振る。適当に付き合って、昼神君の気が済んだところで別れればいいだろう。そう思っていた私は、後に昼神君の真髄を知ることになる。