▼ ▲ ▼

 私と乙骨君は仲が良かった。それは勝手な思い込みではなく、周りから見ても同じであったらしい。

「もう付き合っちまえばいいのにな」

 羞恥で俯く。真希は、何かと私と乙骨君をくっつけたがった。真希だけならばそういう人だとも解釈できるのだが、パンダまでもが、意外だという顔をして「え、付き合ってるんじゃなかったの?」と言うのだ。私は調子に乗せられてしまった。少なからず乙骨君のことをいいと思っていたのだ。そう言われて悪い気はしない。真希とパンダの視線を受け、私は乙骨君を呼び出すことにした。乙骨君は不思議そうな表情ををしていたが、「付き合いたい」と言ったら顔を綻ばせて頷いてくれた。全てが上手く行ったと思っていた。

 乙骨君と付き合い始めたある日、私は乙骨君の部屋で談笑していた。乙骨君が意外に手が早いと知ったのは付き合って暫くのことだ。彼はハグもキスもするし、自分の部屋に恋人を招いたりもする。私の方から告白したとは思えないほどに。あまりの流れの速さに、私は少しの気まずさを感じていた。

「ねえ、何で告白してくれたの」

 乙骨君は愛おしいものでも見るような目で私を捉える。乙骨君は前から私のことを好きだったのだろうか。ただ告白されたから付き合っている、というふうには見えなかった。

「ええと……乙骨君が好きだからで」

 乙骨君は表情を緩めたまま「何で好きなの?」と聞いた。私の罪悪感は頂点に達する。早く本当のことを言って、楽になってしまいたかった。

「真希やパンダにお似合いって言われたから、なりゆきで」

 私の告白を乙骨君は目を見開いて受け止めた。その表情に恋人を慈しむような気配はなかった。もはや今の私達が恋人と呼べるのかもわからなかった。

「好きじゃないのに好きって言ったの?」

 私の瞳を覗き込むように、乙骨君が顔を寄せる。その圧に押されて、私は思わず俯いた。

「許せないよ……僕の気持ちを弄んだ罪だ」

 乙骨君の手が、私の体にかかる。今となっては、付き合ってから優しくしてくれたこと全てが恐ろしく感じた。私はこれから一体どうなってしまうのだろうか。そっと視線を上げると、深淵を覗き込むかのような乙骨君の瞳と目が合った。