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 付き合おう、と言ったのは強固な決意などではなかった。私達の関係性をそろそろ変えてもいいと思ったのだ。佐久早が私を好きであることはわかっていた。私が佐久早を異性として好きなこともまた、薄らと気付いていた。佐久早は表情を微塵も動かさず、部活用のスポーツバッグを肩にかけた。

「恋愛にうつつを抜かして学業や部活に支障が出たら嫌だからしない」
「えー? 恋愛っていいものだよ?」

 予想通り、佐久早は私を好きではあるのだ。断る理由はあくまで交際そのものが嫌だという理由だ。だが、フラれたことには変わりない。私がしおらしく肩を落としていると、佐久早は私に視線をやった。

「俺もお前ぐらい頭が軽けりゃしてたかもな」
「何!?」

 慰めるつもりだったのだろうか。馬鹿にされたような気がするのは勘違いではない。途端に佐久早へ反発するような目を上げると、佐久早は私の表情を確認してふと笑った。その顔を見ていたら、付き合うかどうかは些細なことに思えた。

 半年近く、私達は宙ぶらりんのままでいた。佐久早が部活や勉強を疎かにしたくないと言うから仕方ないのだ。別に付き合わなくても佐久早に好かれているならいい、と思っていた。クラス替えも近付いたある日、佐久早は教室で私を呼び止めた。

「好きだ。付き合おう」

 その顔には少しの罪悪感もない。半年前、私に何を言ったか忘れてしまったのだろうか。私は喜ぶこともせず、身体を引いてみせる。

「さ、佐久早……あの時散々私を馬鹿にしておいて!」

 私が言うと、佐久早はけろりと答えた。

「気が変わった」
「頭が軽いとか部活に影響が出るとか言ってたくせに!」
「それでも付き合いたいと思っちまったんだから仕方ないだろ」

 佐久早の言っていることはかなりの詭弁だ。だが学業も部活も重んじる佐久早が私を優先したということは、かなり好きだと思われているということでいいのだろうか。嬉しいと思ってしまうことが悔しい。唇を固く結んで頷かない私を見て、佐久早は呆れたように笑った。