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 高校を卒業して数年で同窓会があるのはどうかと思う。公式にお酒が飲める年齢になった私達は、堂々と酒を頼みお喋りに興じていた。その中で、私が佐久早の隣になったのは周囲の気遣いあってのことだろう。高校時代の自分を思い出しむず痒い気持ちになる。佐久早は当時と変わらない冷静さで烏龍茶を煽っていた。

「もう顔合わせる度結婚迫ってきたりしねぇんだな」

 当時のことにはノータッチだと思っていたのに、その言葉で私の羞恥が爆発する。

「あの頃は高校生だったからできたの! 私達もう大人だから! 第一結婚してなんて言われたら佐久早だって困るでしょ!?」

 高校生の頃は結婚など非現実的だった。私も本当に佐久早と結婚したいわけではなく、好きだという気持ちの大きさを伝えるために結婚という言葉を使っていた。佐久早が私を面倒くさそうにあしらっていたのはそういった意味もあったかもしれない。今なら考えられないことをしたものだ。佐久早は怒っているどころか、私を煽るような様子だった。

「俺を困らせてやろうっていう気概はどこ行ったんだよ」

 一つ言うならば、当時の私とて佐久早を困らせるつもりはなかったのだけど、佐久早の目にはそう映っていたのかもしれない。要するに他のことなど視界に入れずに佐久早だけを追い続ける熱量がないと言いたいのだろう。当時はなびかなかったくせに、追われなくなると振り返るなど狡い人だ。

「じゃあ結婚して! ほら、困った?」

 半ば自棄になりながら私が言うと、佐久早は「いいぜ」と笑った。

「あの、酔ってる?」
「酔ってない」

 佐久早が揺らしてみせるグラスには烏龍茶が入っている。素面で私と結婚することを決めるほどの利点が、佐久早にあるのだろうか。

「困らなくて悪かったな」

 佐久早は今日初めて悪びれた様子を見せた。そういえば、昔から佐久早は結婚を求められるたびに私が求めていたようなリアクションは見せなかった気がする。解釈違い、だけども嬉しい。結婚するのは先として、私は佐久早を遂に手に入れたのだ。嬉しさのあまり飲みすぎて、私の面倒を見る責務を負った佐久早にしこたま怒られたのはその後の話だ。