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私が図書室で調べ物をしていた時のことだ。オーエンは気配もなく現れると、私の耳元に顔を寄せた。
「賢者様の指を一本頂戴」
折角近付いたというのに、声音からは忍ぶ様子がまるで見られない。
「え?」
思わず私が聞き返すと、オーエンは自身の左手を恭しく掲げてみせた。
「プロポーズ。左手の薬指なんでしょ」
そこで私は漸くオーエンのやりたいことを理解した。オーエンは人間――魔法使いもするかもしれないが――で言うところの求婚行為がしたいのだ。決して私の指で何かを作ろうとか、食べてしまおうとしているわけではない。
「ああ、なんだ……指詰められるのかと思いました」
失礼を顧みずに言うが、オーエンは気を悪くしなかったようで、薄笑いを浮かべている。今日は比較的機嫌のいい日なのかもしれない。
「そっちの方がよかった?」
魔法使いと結婚するか、指を奪われるかなど大それた質問だ。実際オーエンがどこまで本気なのかわからないが、指が欠けてもまだやりようはあるだろう。
「指がなくなったらフィガロに診てもらうので」
私が答えると、オーエンは口を閉じて顔を歪めた。
「むかつく。他の男に頼るなよ。ならやっぱりプロポーズするからな」
「消去法か〜」
気付けばプロポーズが嫌がらせのようになっている。オーエンは私を幸せにしたいのではなく、引っかき回して遊びたいだけなのかもしれない。だが私を好きではないのかと聞かれたら、答えはきっとイエスなのだろう。目の前の男を憎みきれずに、私は小さく笑みを漏らした。
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