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 茂る緑と流れる青の合間で、私達は一心不乱に土を掘っていた。自然溢れる東北の片田舎へやってきたのは決して共謀するためではないのだが、結果としてこうなってしまった。今日、私達は死体を埋める。

 乙骨君が任務に派遣されたのは、殆ど私の任務の引率をするためだった。乙骨君は二人で頑張ろうと言うが、今回試されているのは私である。私は目的通りの呪霊を払い、この地を後にするはずだった。しかし、それらは呪詛師が用意していたものだったのだ。私は咄嗟に、呪詛師へ攻撃した。私達は人々を助けるために尽力しているから、何の迷いもなかった。私達の行動は正しいはずだった。私は正義を盾にして、人を殺した。

「大丈夫、よくあることだ」

 私の後ろに立って、乙骨君は言った。それが嘘であることは私にもわかった。でなければ乙骨君は立ち上がって構えたりなどしないだろう。

「これは事故だ。僕達だけが知っていればいい」

 私は荒い呼吸を繰り返しながら頷いた。乙骨君の口ぶりは、慰めているようでいて脅しているようでもあった。呪詛師の死体を暫く視線に晒した後、私達は近くの山に遺体を埋めた。元々呪霊しかいないと思われていた場所だったし、呪詛師の生活の痕跡はなかったので、事は無事済んだはずだった。しかし、人を殺したという罪悪感が私を苛んで離さなかった。任務から帰ってきた後も、ご飯を食べている時も、思い出すのは呪詛師を埋めている場面だ。もし、誰かに掘り返されたら。もし、呪詛師の存在が知られていたら。唯一の共犯である乙骨君に縋ってしまうのは自然なことだった。私が乙骨君に何を求めていたのかわからない。だが、私は乙骨君と関わることによって楽になりたかったのだ。

「ねえ、乙骨君、付き合おう?」

 私の表情は、到底恋をする少女のものではなかったことだろう。焦燥と保身に満ちた私の顔を、乙骨君は一瞥した。まるで許さないとでも言うかのように、乙骨君は私の顔を近くから覗き込んだ。

「好きだとか言って誤魔化すつもり? 僕達の罪を」

 乙骨君に私の下心は見え透いていたのだろう。私は乙骨君を好きでいたわけではない。乙骨君と特別な仲になるこたによって、死体遺棄の共犯という関係を曖昧にしようとしたのだ。私は泣き出したい気持ちで唇を噛んだ。私と乙骨君は一生、共犯者のままなのだ。