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 買い物に出掛けていた時、ふと後ろから声をかけられた。振り向いてみれば、片手を挙げた銀さんだった。

「名前ちゃんじゃん。何で男物売り場にいんの?」

 知り合いに男物売り場にいるところを見られて恥ずかしいという気持ちはある。しかし私には正当な理由があるのだ。

「一人暮らしなので洗濯物に男物の下着を干そうかと……」

 決して浮ついた理由などではない。そう証明するように言うと、銀さんは表情を緩めた。

「なーんだ」

 銀さんの様子は、心なしか安心したようである。違和感を覚えつつも、そのに突っ込む勇気は出ない。銀さんは近くのラックに手を伸ばすと、徐にトランクスを一枚とった。

「ならこれとかいいんじゃねェの。俺こういうの好み」
「何で銀さんの好みに合わせるんですか?」
「だって将来俺が履くことになるかもしれねェだろ?」

 私は思わず絶句する。銀さんは私の部屋に入り浸って一時用の下着としてストックを使う未来を考えているのだ。普段のようにおどけてくれればいいものを、今日は真剣な顔をするから反応に困る。いや、真剣にボケる時もあるのだけど、突っ込んでカウンターを食らったら私はいよいよ逃げ場をなくしてしまうのだ。

 私の様子を気にせず、銀さんは顔を上げてみせた。

「あ、下着の好みだったら男物より女物が知りたいよな。悪い悪い」
「別に知らなくていいです!」

 漸くいつもの銀さんに戻ってくれた。こうして明らかに冗談だとわかる軽口を叩いてくれれば、私も突っ込めるというものである。もしかしたら銀さんは、私が困っていることをわかって助け舟を出してくれたのかもしれない。とはいえ銀さんに攻撃を喰らったことに変わりなく、私はトランクスを手にすると逃げ出すように会計へ向かった。銀さんがおすすめした下着になったのは偶然だ、と言い聞かせながら。