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 隣のクラスの男子に遊びに誘われた。異性として見られていることは喜ばしいことなのだが、踏みとどまるのは私に好きな人がいるからだ。とはいえ、彼と付き合っているわけではないし、返事すら貰っていない。忘れるための良い機会なのではないかと思いつつも、気持ちを捨てきれない私がいる。

「お前、俺のことが好きっつったよな」

 私達が話していたのを聞いていたのだろう、考え込む私を見て、痺れをきらしたように佐久早君が近付いた。その表情は心なしか怒っているように見える。

「言ったけど、佐久早君に行動まで制限される道理はないっていうか」
「好きなら義理だてしたらどうなんだ」

 佐久早君は私の言葉を聞く様子がない。例えばこれで付き合っているのなら佐久早君に従おうと思うが、今の私達はただのクラスメイトなのである。それに、佐久早君は私に対して後ろめたいことがあるはずだ。

「佐久早君まだ私に返事してないの忘れてない?」

 ここぞとばかりに私が攻撃すると、佐久早君はまるで効いていないと言うように堂々と私を見下ろした。

「こんな状況で返事されて嬉しいのか?」
「そ、それはそうだけど」

 何故佐久早君の方が大きく出ているのだろう。そう思いつつも、佐久早君の言うことは正論である。ただ、とても返事を放置している人の態度とは思えないだけで。

「お前の行動が俺の返事に繋がると自覚しろ」

 佐久早君の言いぶりは監督か何かのようだ。見下される一方で悔しいと思いつつも、佐久早君を好きなのだから仕方ない。佐久早君は鼻を鳴らすと、ゆっくりと去って行った。私が隣のクラスの男子と出かけることはないと確信したのだろう。残念ながら、その通りだ。