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 三月も中頃を迎えようかという頃、私は唐突に佐久早の襲来に遭っていた。部活があるだろうに放課後私の机まで来た佐久早は、短く言うのだ。

「返事は」
「え?」
「バレンタインにチョコやっただろ」

 その言葉で今日がホワイトデーだということを思い出した。チョコを貰わなかったわけではないが、大抵の人は朝にお返しを済ませてしまい、放課後になってから話す人など皆無なのだ。

「あれ告白だったの?」

 私はバレンタインの出来事を思い出す。朝、机にチョコの山を作っている佐久早に、私は冷やかすように言ったのだ。

「佐久早凄いチョコの量だね」

 すると佐久早は傍観者でいるのは許さないと言うように、山の中から一つチョコを取った。

「やる」

 きっと勇気を出して渡したであろうチョコを横流しするのはどうかと思うが、潔癖な佐久早が果たして食べるのかはわからない。私の手に渡った方がきちんとチョコとしての役目を果たせるだろう。仕方なく私は綺麗にラッピングされたチョコを食べたのだった。

「てっきりいらないから渡したのかと……」

 佐久早のような男が逆チョコをするとは思えない。それに、告白の言葉など何もなかった。佐久早は反抗するかのように、「本命だ」と言った。

「わかんないよ」
「それで返事は」

 まるで会話が通じない。私は佐久早に告白されたという事実に改めて向き合い、佐久早の方を見た。

「私今日チョコなんか用意してないんだよね」

 佐久早は黙りこくっている。勝算がないと告白しなさそうな佐久早のことだから、衝撃に備えているのかもしれない。それを覆すかのように、私は笑ってみせる。

「だから言葉だけ。付き合ってください」

 私が言うと、佐久早はとても私が好きとは思えない顔で悪態をついた。

「お前のくせに変な揺さぶりかけるな」

 その表情に安堵の色が見えて、私は擽ったい気持ちになった。