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佐久早が教室へ帰ってくるのを認めると、私は口角が上がるのを隠しもせずに迎えた。
「告白されてたね」
佐久早を呼び出した相手――後輩の女の子が指定したのは、この教室からよく見える中庭なのだ。佐久早は倦厭するかと思いきや、さして気に留めないように腰を下ろした。
「どれもミーハーな奴だろ。本気じゃない」
そう語る様子はまさしく告白に疲れたようだった。無理もない。佐久早はインターハイで優勝してから、何度も呼び出されているのだ。佐久早の中で女というのは、恋愛好きな面倒な生き物として映っていることだろう。
「本気かもしれないじゃん。じゃあ何だったら本気だと思うわけ?」
私が反発したのは、今日佐久早に告白していた後輩の女の子が可哀想だと思ったからではない。同じ女として、女子全体を馬鹿にするような佐久早の態度が我慢ならなかったのだ。佐久早は少しの間を置くと、気怠げな視線をこちらへ向けた。
「お前くらい仲良い奴が告白してきたら」
途端に私は毒気を抜かれてしまう。佐久早が例えとして言ったことはわかっている。だが恋愛の話で自分の名前を出されて冷静でいられるほど、私は大人ではない。むしろただのクラスメイトである私を平然と話に出せる佐久早が変わっているのだ。
「今隙見せられてる?」
これは佐久早からの何かしらのメッセージかもしれない。私は佐久早のことを何とも思っていないけれど、佐久早のことを狙っていいというような。
「隙じゃない。事実だ」
言い切った佐久早にやはり羞恥はなくて、私ばかり動揺してしまう。佐久早のことを好きではなかったはずなのに、何故私の選択肢には佐久早に告白することがあるのだろう。天然でやっているなら恐ろしいことだと、私は忙しなく弄る手の先を見た。
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