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 目が覚めたら知らない小部屋にいた。隣にいる五条さんは私より先に目覚めた様子で、部屋の一端をしきりに見つめている。何故五条さんが私と一緒にいるのかも考えもせず、私はそちらに目をやった。出入り口と思われるドアには鍵がかかっていて、その上に「セックスしたら出られない部屋」と書いてある。

「つまりセックスすれば永遠に二人きりってこと?」

 言を発した五条さんにたじろぐ。この部屋は誰かが呪力で閉じ込めたのだろうが、看板の下に小さくセックスをしなければ三日で出られる旨が注意書きしてある。いくら五条さんが多忙とはいえ、確実に出られる方法があるのだ。それ以前に、私達には大きな問題があった。

「あの、私達付き合ってないですよね?」

 イケメンで最強――どれだけ遊んでいるかわからない五条さんとセックスをするなど抵抗があるどころの話ではない。一線を超えなどしたら呪術師の仲間内で私が気まずくなるだけだろう。

「どっちにしろ何日かは部屋に閉じ込められてるんだよ。手は出る」
「自制してください!」

 五条さんは、思った通りと言うべきか手が早いようだった。部屋にはシャワーやトイレも備え付けられ、生活できるようになっている。とはいえ、永遠に過ごせるほど仕掛け人の呪力は強くないだろう。

「五条さんだってこんな状況でするのじゃ嫌でしょ!」

 五条さんを説得するのに必死で、私は言葉を選ばない。いくら遊び人とはいえ、誰の目があるかわからない場所で全裸を晒すのは嫌だろう。五条さんは口元を歪めると、私に近付いた。

「『だって』ってことは、こういう状況じゃなければしてもいいんだ」
「揚げ足取らないでください! こっちに来ないで!」

 悲鳴を上げるほど嫌なはずなのに、不思議と私には拒む理由がそれほど出てこない。せいぜい同じ界隈の男と特別な仲になりたくないという程度だ。今更そんなことを感じるのは、迫ってくる五条さんを拒むべきだと思っているからだろうか。頭の中で必死に考えている時点で、私は五条さんを受け入れようとしているのかもしれない。幸いと言うべきなのか、私は流されやすいタイプだった。