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「おはよう苗字。好きだ。好き好き大好き」

 朝顔を合わせたかと思えば狂言をのたまう佐久早に、私は困惑した。

「えっと……」

 勿論嬉しいことには変わりない。だがそれ以前に、何の心境の変化だろうかと思ってしまう。今のところ私の気持ちの一方通行で、佐久早は私のことを好きではないはずだ。仮に両思いになったとしても、佐久早は出会い頭に甘い言葉を投げつける人ではないだろう。

「朝からこんなことを言われる俺の気持ちがわかったか?」

 佐久早は呆れたような顔をしている。佐久早は私に仕返しをしていたのだ。そういえば、私は顔を合わせるごとに佐久早に好きだと言っている気がする。それにしても、佐久早からの告白は破壊力がありすぎる。

「佐久早が可愛いってことしかわからない」
「誰が可愛いだ。俺は人目も憚らず攻撃してくるのをやめろって言ってんだよ」

 佐久早はもう攻撃モードをやめてしまったのか、普段の調子だ。だが私の目にはしかと先程の佐久早が焼き付いてくる。いくら私に理解させるためといえど、佐久早が「好き好き」などのたまうとは思わなかった。

「た、確かにそんなに可愛いことを言うなら二人きりの時にしてほしいかも……」

 私が照れながら言うと、佐久早は焦ったように手を伸ばした。

「おい、そういうことじゃねぇ。いきなり好きとか言われたら困るだろって話だ」
「佐久早が好きすぎて……困る……!」
「人の話を聞け!」

 この時の私は佐久早の告白に夢中になりすぎて、佐久早の言った意味をきちんと理解していなかった。要するに、佐久早は会うごとに大勢の前で告白するのをやめろと言いたかったのである。早とちりした私がじゃあ好きとは言わないようにする、と言って佐久早に拒否されたのはまた別の話だ。