▼ ▲ ▼

 佐久早が教室に入ってきたのを見計らって、私は隣に並んだ。その表情は一見冷静だが、先程先輩の女子に呼び出されていたのを私は知っている。

「佐久早また告白されてたでしょ」

 私の声にはからかうような色合いも含まれていたと思う。だが佐久早はむくれた様子を見せず、呆れたように視線を前の方へやった。

「あれは一発ヤらねぇかって誘いだよ。だから不安がる必要ない」
「何で!?」

 私は思わず叫ぶ。告白ではなく、セックスの誘いなど一大事だ。私にとってはそちらの方が衝撃が大きい。そして何故私が不安になる前提なのだろうか。佐久早を見ていると、佐久早は何を勘違いしたのか誘いを受けない理由を語り始めた。

「好きな人のためにとっておきたいだろ……」

 佐久早の貞操観念は知らないが、意外と乙女のようなことを言うのだと思った。さりげなく童貞であることを告白しているが、それは別にいいのだろう。佐久早は私の顔を見て眉をしかめた。

「俺が見境なく手出すと思ってんのか」
「うん」

 素直に答えると、佐久早が長いため息を吐く。

「お前な、そういうこと言ってるとお前に手出すぞ」

 脅し方がいくら何でも俗的すぎる。

「とっておきたいとか言ってたくせに!」

 先程との矛盾を突いてやると、佐久早はどうでもいいといった様子で答えた。

「お前ならいいんだよ」

 佐久早がわけのわからないことを言うのはいつものことだから、私はあまり気にしていなかった。だが佐久早の今日一日の言葉を組み合わせて、私は後から叫び出すはめになるのである。