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佐久早が教室に入ってきたのを見計らって、私は隣に並んだ。その表情は一見冷静だが、先程先輩の女子に呼び出されていたのを私は知っている。
「佐久早また告白されてたでしょ」
私の声にはからかうような色合いも含まれていたと思う。だが佐久早はむくれた様子を見せず、呆れたように視線を前の方へやった。
「あれは一発ヤらねぇかって誘いだよ。だから不安がる必要ない」
「何で!?」
私は思わず叫ぶ。告白ではなく、セックスの誘いなど一大事だ。私にとってはそちらの方が衝撃が大きい。そして何故私が不安になる前提なのだろうか。佐久早を見ていると、佐久早は何を勘違いしたのか誘いを受けない理由を語り始めた。
「好きな人のためにとっておきたいだろ……」
佐久早の貞操観念は知らないが、意外と乙女のようなことを言うのだと思った。さりげなく童貞であることを告白しているが、それは別にいいのだろう。佐久早は私の顔を見て眉をしかめた。
「俺が見境なく手出すと思ってんのか」
「うん」
素直に答えると、佐久早が長いため息を吐く。
「お前な、そういうこと言ってるとお前に手出すぞ」
脅し方がいくら何でも俗的すぎる。
「とっておきたいとか言ってたくせに!」
先程との矛盾を突いてやると、佐久早はどうでもいいといった様子で答えた。
「お前ならいいんだよ」
佐久早がわけのわからないことを言うのはいつものことだから、私はあまり気にしていなかった。だが佐久早の今日一日の言葉を組み合わせて、私は後から叫び出すはめになるのである。
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