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 修了式を目前にした昼下がり、私は教室で佐久早と並んでいた。

「クラス離れたら佐久早を好きなのやめる」

 佐久早が私の気持ちを迷惑に思っているのではないか、ということはこの際考えないことにする。もしそうなら佐久早はとっくに何かしらのアクションをとっていることだろう。実際多少は迷惑だったかもしれないが、一年も好かれている内に折り合いをつけたのだろう。後は佐久早が振り向くのを待つのみ、となって半年以上経った。報われない想いにかたをつけるのも必要かもしれない。止めてくれるかと思いきや、佐久早は意外な言葉を放った。

「クラスはお前が決めるわけじゃないだろ。もう少し自分の努力と関係あるものにしろよ。試合に勝ったらとか」

 何とも佐久早らしい言葉だ。部活で負けたら、試験で悪い成績を残したら諦める。などとはよくある話である。私はそれを自分の力の及ばないクラス替えに任せたのだ。

「部活入ってないもん」

 口答えをするように私が答えると、佐久早はゴミ箱を指した。

「じゃあその缶がゴミ箱に入らなかったら」

 私の手には、今日買ったジュースの缶が握られている。中身はとうに空で、手で弄り回して遊んでいた。私は自分の気持ちがかかっているとは思えない身軽さで缶を投げる。それは丸みがかかった軌道を描き、呆気なくゴミ箱のふちに載った。入らなかった。

「じゃあこれで諦めるね」

 私が佐久早の元を立ち去ろうとした時、佐久早が力強いフォームで缶を投げた。すると佐久早の缶が私の缶に当たり、二つ揃ってゴミ箱の中に落ちる。

「決まりだな。好きでいろ」

 そう言う佐久早に何か言うより前に、佐久早はふらりと歩き出してしまった。私は永遠に佐久早を諦められそうにない。