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「私はもう、銀時以外に裸見せられなくなっちゃったね」

 そう言う女は苗字名前、攘夷戦争時代の盟友である。何故戦争に参加したのかは知らないが、女だてらに強く、各所で活躍したのを覚えている。最後は銀時が撤退する数か月前に、脇腹に大きな怪我を負って前線を退いた。銀時が名前のいる療養所に付き添ったのは、女の体を見ようとする奴らを遠ざけるためでもあった。当時は恋愛というよりも、信頼の方が強かった。十年経って再会した今裸などという言葉を使われても、やはり甘い雰囲気にはならなかった。銀時の口の中には、名前の傷を見た時の苦みが広がる。

「そうやって一生処女のまま生きていくのか」

 銀時に誘う気はない。ただかつての盟友として、名前が女の幸せを掴めずに死んでいくことを悔やんでいるのである。

「誰かに自分をさらけ出す勇気も必要なんじゃねーの」

 こういう時、銀時は曖昧な口調に逃げてしまう。何でも言いたいことを素直に主張できる新八の若さが、少し羨ましかった。名前は目尻を下げて笑った。

「それなら私は銀時と一緒に生きる勇気を選ぶ」

 銀時は思わず笑いだした。名前は傷のことを知っている銀時と一緒になりたいと言っているのではない。誰かに自分をさらけ出すくらいならば、銀時と付き合った方がマシだ。そしてそれは一生来ないと言っているのである。曲がりなりにも愛の言葉が、絶対にやらないことの比較として使われているのだから悲しいものだ。銀時は「そうかい」と言って歩き出した。

「天人殺しまくってた俺らに、まともな番なんざいるわけねェや」

 体に傷が残っているのは銀時も同じだ。銀時の体を見て、あからさまに驚いた女もいる。恋愛の枷をはめられているのは銀時もなのだ。そういった者同士で交わらなければ、永遠に伴侶を得ることはできない。今自らでその可能性を潰した銀時達の未来は、孤独になったのである。だとしても孤独こそが、戦争に参加した者にとっての罰なのかもしれない。