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 三月も下旬になった。佐久早の誕生日も終わり、残すは進級のみである。となると、重大な問題が発生する。

「クラス替えで佐久早と同じクラスになれますように!」

 現在私は同じクラスで佐久早を毎日目にできているが、クラスが離れたらどうなるかはわからない。佐久早に限って進級早々彼女を作ることはないだろうが、私の推し活動の規模は縮小せざるを得ないというところだ。また仰々しく両手を握ってみせた私に、佐久早は呆れてため息をつく。

「クラス離れたところでお前は俺を好きでい続けるだろうが」
「毎日佐久早の顔を見るの!」

 勿論、私の佐久早への愛はクラスが離れた程度でなくなるものではない。とはいえ接点がなくなれば、必然と薄まってしまうものである。その気持ちを察したのだろうか、佐久早は横を向きながら呟いた。

「別のクラスでも見にくりゃいいだろ」

 私は目を瞠って固まる。まさか佐久早が、私の推し活動を受け入れてくれるとは思わなかったのだ。いや、毎日しつこく絡む私に何も言わない時点で受け入れているようなものなのだが、それは諦めに近いと思っていた。佐久早の方から、何かをしていいと言うことはないと思っていたのだ。

「佐久早、そういうの迷惑かと思ってた」

 私は冷静に告げる。今は佐久早が推しだということは関係なく、一対一の対話の時間だった。

「別に今更だろ。嫌ならとっくに言ってる」

 ということは、私が今までしていたことは佐久早にとって迷惑ではなかったのだ。嫌そうな顔をしておいて、やぶさかでもない気持ちでいたのだろうか。佐久早のそういう所に焦らされるような気持ちになる。

「じゃあ毎朝おはようのハグする!」

 途端に元気を取り戻した私に、佐久早は冷静に「それはやめろ」と言った。今はその言葉も気にならないくらい、私は浮かれている。