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「佐久早、次の試合も観に行くね!」

 佐久早の背中に語りかけると、向けられたのは嬉しそうな顔――ではなく顰めっ面だった。そもそも佐久早が喜色満面を見せることは想像に難いのだが、応援をされたら少しは応えるのが人ではないだろうか。佐久早は私と向き直ると、責めるような口調で言った。

「俺のためにそこまでしなくていい。それに親には何て言うんだよ」
「佐久早と金沢行ってきますって」

 別に私は佐久早に尽くしている自覚はない。私が勝手に佐久早を好きで、その勇姿を見たいから応援に行くのだ。もしかしたら佐久早が気にしている部分は、会場が離れていることかもしれなかった。だがもう高校生なのだから一人で新幹線くらい乗れる。胸を張った私に、佐久早は凄んでみせる。

「語弊があるだろ! しかもそれだと俺が挨拶しないまま娘を連れ回す最悪な男じゃねぇか」

 語弊も何も、佐久早と金沢に行くという部分は間違っていない。金沢で大会があって、そこに佐久早がいるのだ。

「じゃあ観に行くのやめる?」

 私としては観に行きたいが、佐久早本人が嫌がるなら仕方ない。佐久早は暫く葛藤した後、絞り出すように私を睨んだ。

「おい、お前の親に挨拶させろ」
「え? でも私達付き合ってないし」

 私は困惑する。いきなり挨拶させろなどと言われても、私達はただのクラスメイトだ。それを紹介したところで何になると言うのだろう。

「お前が俺の追っかけするなら俺に責任があるんだよ!」

 私の思考を遮るように畳みかけられ、私は慌てて親にメッセージを飛ばした。親の前で佐久早は何と言うつもりなのだろうか。親に異性を紹介する定番は交際を明かす時だけど、と考えて、まさかと否定する。佐久早が私のことを異性として認識しているなんて、そんなはずはない。