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 告白をすると、伏黒君は喜ぶでも断るでもなかった。難解な表情を浮かべ、まるで取引を迫るように私に言う。

「付き合ってもいい。だが絶対に喧嘩しないし在学中は別れないって誓えるか?」

 交際を申し込まれて、将来の約束をする人は少ない。伏黒君は喧嘩するくらいなら付き合いたくないということだろうか。気難しそうな伏黒君なら、ない話でもない。すると私の心情を察したように、伏黒君が続けた。

「勘違いするな。呪術高専っていうクローズドな人間関係の中で付き合うならそれくらいは徹底した方がいい。三年間虎杖や釘崎に気遣わせるなんて嫌だろ」

 伏黒君は周囲の人間関係のことを言っていたのだ。確かに、呪術高専は普通の高校とはわけが違う。その中で付き合うとなれば、どうしても気を遣ったり遣われたりするだろう。

「じゃあ、約束する」
「ん」

 半ば流されるような形で約束し、私達は付き合うことになった。永遠の愛を誓えるほど伏黒君への気持ちが大きいわけではない。しかし、高校生にもなった伏黒君と私なら、なんとかできるのではないかと思ったのだ。

「伏黒も言うわね、素直に頷いときゃいいのに」

 事の顛末を聞いた野薔薇は、頬杖を突いて嘆いた。元より野薔薇から前向きな反応が返ってくるとは思っていない。野薔薇は私が伏黒君を好きだと言った時から反対していたのだ。

 そこで、一つの思いが私の頭を過ぎる。私に約束をさせるくらいなら、伏黒君も同じ約束をできるということだ。

「告白したのは私の方からだったけど、伏黒君も三年間は私と喧嘩せずやっていけるくらいの自信があったってこと?」

 今気付いたとばかりに目を丸くする私を、野薔薇が呆れたような目で見た。

「アンタが気付いてないだけで、伏黒も結構アンタに惚れてるわよ」

 それを先に言ってくれれば、告白の時あれほど緊張せずに済んだのに。今更言ってももう遅い。結果として付き合えているのだから、万事解決だろう。