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「付き合ってください」

 私に言うのは後輩の影山君である。私は少なからず驚いた。影山君は私を好きそうなそぶりを全く見せなかったし、そもそも影山君に恋愛の概念があるとは思わなかったのだ。とはいえ、いざ告白されたらやぶさかではない。私は努めて真剣な表情を作りながら影山君を見上げた。

「影山君のことは別になんとも思ってなかったけど……いいよ」
「じゃあいいです」
「え!?」

 すかさず返された言葉に声が出る。影山君は、私と付き合いたかったのではなかったのだろうか。何故か私がフラれている状況についていけない。

「好きじゃないのに付き合わせるのは悪いので」

 その言い分は、何とも真面目な影山君らしかった。その潔癖さを、今はもどかしく感じる。

「影山君私のこと好きなんでしょ!? もっと欲出せばいいのに!」

 私が痺れをきらしても、影山君はあくまで冷静だった。

「でも苗字さんは俺のこと好きじゃないんですよね」

 畳み掛けられ、私は勢いをなくす。

「好きじゃなくもない……」
「どういう意味ですか?」

 察してくれればいいものを、影山君はきちんと言わないと伝わらないようだ。そういえば、元から鈍感な子であった。

「あーもー! 付き合ってもいいってこと!」

 私が殻を破ると、影山君は頷くでもなく表情を緩めた。

「よかった」
「よかったじゃない! 早く付き合おうって言え!」

 影山君の方から告白することにこだわる私と、私の気持ちを知って喜ぶ影山君。どちらの方が相手のことを好きなのか、わかりやしない。