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 傑と硝子は任務へ行ってしまった。残された二人で体術の訓練をするが、それにも限界がある。私と五条では実力に差があるし、交替もないので休憩の時間もない。一通りこなしてから、私達は日陰に入り段差に腰を下ろした。先程自動販売機で買ったジュースに露が垂れる。暫くの沈黙の後、五条が口火を切った。

「傑、浮気してんぞ」

 私は暫く何も言えなかった。衝撃的だったからではない。五条がわざわざそのことを私へ言う意味について考えていたのだ。知らず知らずの内に下唇を噛み締める。浮気をされただけではなく、それを同級生にも知られた情けなさが、私を襲う。

「気付かないふりしてるのに、何でそうやって私を不幸にするの? 私のこと好きなら幸せにしてよ」

 口を開けばこのざまだ。恐らく五条は厚意で言ってくれただろうに、五条のことを責めている。私が責めるべきは、傑だというのに。自分のことが嫌になる。五条の気持ちに応えるつもりもないくせに、何故幸せをねだってしまうのだろう。五条は長い息を吐くと、缶ジュースの中身を覗き込んだ。まるでそこに何かが映っているかのように。

「無理だよ、俺は傑じゃねぇんだから」

 傑は浮気をしていて、私は傑が好きで、五条は私が好きで。誰も幸せにならない三角関係がそこにはあった。私が何らかの行動をとることで誰か一人くらいは幸せになれるのかもしれないけれど、とてもそうする気にはなれなかった。私達は変われない。春の泥に取り込まれたまま、身動きがとれないのだ。