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「君に聞きたいことがある」とメッセージが送られてきたのが二時間程前だ。言わずもがな彼は闇の世界に生きているし、私とてその一員である。待ち合わせ場所はクラブか、ホテルか。次いで送られてきた位置情報に従うと、気付けば写真で溢れたメニューを広げていたのである。

「何でファミレス?」
「君相手だったらわざわざ抱かなくてもいいだろ。さあ情報を吐け」

 そう言う彼――降谷は、とても捜査をしているようには見えない。服の胸元を緩め、怠そうにメニューに視線を落とすさまはまるでプライベートのようだ。いや、私達は元々知り合いであるのだからプライベートにも近いのだが、それにしても聞き方というものがあるだろう。

「私のこと舐めすぎだしその格好ファミレスで滅茶苦茶浮いてるからね!? せめてバー行け!」

 降谷は目線を上げた。上下揃ったセットアップとタイは、このファミレスには上品すぎる。先程から周りの女子達の視線を集めているのに気付いているのだろうか。降谷は意に介した様子もなく、メニューをテーブルの上に置いた。

「僕が何を着ようと自由だろう」

 その言いぶりからは、私のために余計な労力を割きたくない――通常の潜入捜査でするように、わざわざホテルへ行って抱くようなことをしたくないと感じさせられる。私は諦めてスマートフォンを見せた。

「まったく……調べてる男の正体はこれ」

 画面には、一見無関係と思われる暴力団のニュースが載っている。賢い降谷ならば、それだけで点と点を繋ぐことができるだろう。

「さ、話は終わったし帰るか」

 いつまでもファミレスに長居していられない。私が立ち上がると、向かいから真剣な声色が聞こえてきた。

「やっぱりホテルに行くぞ」
「は!? 情報は渡したでしょ!?」

 私は思わず降谷を見る。降谷は挑戦的な表情で、私を見上げていた。

「気が変わった。僕の手柄をファミレスのせいにする気か」

 そう言われてしまえば、私とてやぶさかではない。降谷の沽券のためと言い聞かせて、私達は夜道に消えた。情報を抜くという目的がなければただの恋愛行為になってしまうのだけど、それには見ないふりをする。