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 駅からの道を歩いていると、赤葦が隣に並んできた。お互いの足音は確かに聞こえているが、特段話すことがあるわけでもない。赤葦とは沈黙が気まずい関係性ではなかった。このまま学校まで向かってもいいのだが、折角二人になれたので前々から気になっていたことを口に出す。

「私のこと好きなの?」

 思春期の男女にとってはセンシティブな話題を、私は簡単に口にした。なんとなく、赤葦は動揺したりしないだろうと思っていたのだ。予想通り赤葦は落ち着いた様子で前を見据えていた。

「それ答えたら何かあるんですか?」
「例えば?」

 冷静でいるのは想定内だが、質問で返されるのは予想していなかった。赤葦は微塵も声色を乱さないまま、およそ通学路に相応しくない言葉を出す。

「俺にキスしてくれるとか」
「はぁっ!?」

 私は思わず大きな声を出して赤葦を見た。赤葦は涼しげな顔をして、私に交渉している。

「キスしてくれるなら言います」
「それもう答え言ってるようなものでしょ! 私のこと好きなんじゃん!」

 キスがしたいということは、私のことを好きだということだ。何故赤葦は少しも恥ずかしがらないのだろうか。状況で言えば片思い中の赤葦が気持ちを知られているはずなのに、私の方が追い詰められているみたいだ。

「答え、言ってほしいですか?」

 赤葦の瞳に見つめられ、私は唾を飲む。赤葦の気持ちは既にわかっている。それでも私が教えてほしいと言うことは、キスをしてほしいと言うのと同義だ。つまり赤葦はこの問答で、私の気持ちを測っている。赤葦らしい遠回しさに感嘆しながらも、私の頭はオーバーヒートしていた。