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 五条は暫く何を言われたのかわからなかった。言葉自体はシンプルなもので、「付き合いたい」ただそれだけだ。問題は、五条が既に名前と付き合っていたつもりであるということだ。女に誘われたらすぐに乗ってしまうかもしれないが、好きな女相手に勢い任せにするほど五条は浮ついていない。そういえば、きちんと言葉にして付き合おうと言ったことはなかった気がする。それでも、付き合っていなければあんなことはしないと思うのだけど。

「いいぜ」

 付き合っているつもりでした、と言うのも情けなく、五条は白々しく頷いた。どちらにしろこれで付き合うことになるのだ。時期が違うだけで、結果としては万々歳ではないか。

 とはいえ、名前は今までの五条を「付き合っていない」と思い込んでいたのだ。どんな男だって、恋人になれば態度が変わる。五条はここから、さらに甘い男にならなければならないのである。

「今日のお前めっちゃ可愛いな」
「え!?」
「愛してる」

 五条は甘い言葉を繰り返した。既に最上級に優しいつもりでいたのだ。もっと恋人らしくするとなると、選択肢は少ない。名前は照れた様子なく、しかし動揺していた。

「あの……付き合うって無理しなくていいんだよ? 私はセフレのままでも」

 その言葉に思わず五条は噛み付く。

「俺達がセフレだったことなんてねぇっつうの!」
「え?」

 名前は意表を突かれた様子だが、五条は構っていられない。こうなればもう、後戻りはできないのだ。

「俺は最初からお前が好きだ!」

 言ってから、暗に付き合っていたと勘違いしていたことを告白したに等しいことに気付いた。五条は地面にしゃがみ込み、頭を手で押さえる。

「あー……情けねー……」

 笑いたければ笑えばいい。名前の顔は見えないが、声色からは楽しそうな様子が伝わってきた。

「五条って意外に純情なんだね」

 そう言った名前を睨み上げ、五条は凄んでみせる。

「お前覚えてろよ、もうイチャラブセックスなんかしねぇからな」

 とはいえ、なんだかんだで名前に甘くしてしまうのだろう。名前と両思いになっても、五条の苦労は絶えない。