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高校の先輩で、不思議な人がいた。いつも輪の中心にいるわけではない。しかし必ず彼がいると、周りの物事は上手く進むのだ。最初は偶然だと思っていた。だがどうしても、彼が干渉している気になってしまうのだ。
「迅先輩は何者なんですか?」
彼――迅先輩への気持ちは、男女のそれなのか単なる興味なのかわからない。迅先輩は困ったように目を逸らした後、それを見抜いているように言った。
「好きになったら教えてあげるよ」
私は特別何かしたわけではない。ただ、迅先輩を好きになれば迅先輩について知ることができるのだと思っていた。それがいつのまにか、迅先輩を好きになっていた。私は元々何らかの好意を迅先輩に抱いていたのだろう。好きになったことを告げると、迅先輩は迷いもせず答えた。
「おれは未来が視えるんだ」
呆気にとられたが、今までの迅先輩のことを思えば不思議な話ではなかった。納得させる力が、迅先輩にはあった。迅先輩は疑われることを少しも予期していない顔で私を見下ろしていた。
「こんなの、好きになっても敵うわけないじゃないですか……」
未来が視える人と、どうやって恋愛の駆け引きをすればいいのだろう。項垂れる私に合わせて、迅先輩が屈んだ。
「ごめんね、後戻りできなくなってほしくて言った」
迅先輩は優しいくせに、意地悪な人だ。私の背中に触れる手がなだらかに動く。
「じゃないと君、おれのこと受け入れてくれないでしょ?」
そう言う声は少しの寂しさを孕んでいて、迅先輩がマイノリティであることを感じさせた。私は迅先輩を睨みあげると、青春を奪われた恨みを込めて言った。
「好きになった責任、とってください」
迅先輩は一瞬目を丸くした後、小さく笑った。
「喜んで」
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