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 放課後の教室には、帰りの約束をする男女で溢れている。部活生も僅かな逢瀬を楽しんでいるところを、目の前の佐久早は部活が始まるまでの時間を隣の席である私と話すことで潰しているのだ。おしゃべりと言うほど盛り上がっているわけでもないが、佐久早は他にすることがないのだろう。

「恋愛すればいいのに」

 私の小さな呟きを、佐久早は拾ったらしかった。

「俺が恋愛する場合必然的に相手はお前になるが死ぬほど愛される覚悟はあるのか?」

 言っていることは甘いというのに、私を見る視線はまるで脅しているようだ。

「重っ! ていうか何で私なの」
「恋愛するとしたらお前しかいねぇだろ」

 当たり前だとばかりに返された言葉に、私は少し体を引いてみせる。

「私のこと好きなの?」

 年頃の男女にとってセンシティブな話題を、私は簡単に口にしてみせた。先に愛される覚悟はあるかなどと言ったのは佐久早なのだ。思わせぶりなことを言った責任をとってもらわなければいけない。

「別に好きじゃない」

 しかしあっけらかんと答えた佐久早に、私は人差し指で佐久早のことを差した。今更逃げることはないだろう。

「それおかしいでしょ! 死ぬほど愛すとか言っておいて! もう私のこと好きでしょ絶対!」

 自意識過剰などという言葉は忘れておく。佐久早は変にずれている所があるので、自分の気持ちを自覚していないだけなのだ。それか、私ごときに好きだと言ってたまるかと思っているのだろう。

「まだ好きじゃねぇ。付き合ったら盲目的に愛すタイプだってことだ」

 相変わらず認めない佐久早であったが、「まだ」という言葉に私は溜飲を下げる。佐久早が気付いているかはわからないが、少しは私のことを好きになる気配があるということだ。はて、何故私は佐久早に好かれようとしているのだったか。佐久早は「部活」と言って立ち上がってしまった。明日から、佐久早を意識してしまったらどうしよう。