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「好きな人いますか?」

 私が問うと、二宮さんは真剣な顔を上げた。呆れるか答えないだろうと思っていた私には少し意外だった。

「それを聞いてどうする? 俺に好きな人がいようがお前には関係ない話じゃないのか? 関係あるのは俺を恋愛対象として見ている奴だけだろう」

 話の流れが変わったのを感じる。私が二宮さんに話をふったはずなのに、私に向けられているような。平静な顔の裏で動揺を隠す。二宮さんは普段通りの表情だった。

「俺のことが好きなのか?」

 ああ、やはりこうなってしまった。肝心なことは何一つ答えていないのに、私にカウンターを寄越す。これらを無意識でやっていそうなのが二宮さんの怖いところだ。

「別にそういうわけじゃないです! 二宮さんの自意識過剰!」

 私が怒ってみせると、二宮さんは気を悪くした様子もなく言った。

「お前が俺を探るのはよくて俺がお前を探ったら悪いのか」

 それは先程自分が言ったことと矛盾していると気付いているのだろうか。好きな人がいるのか気になる、ということは相手を好きだというのは二宮さんの持論のはずだ。

「それこそ二宮さんには関係ない話じゃないですか! 私のこと好きなんですか!?」

 今日はやけにおとなしい二宮さんでも、「おい」と怒ると思っていた。むしろ怒ってくれた方がこの奇妙な雰囲気を抜け出せると思っていた。しかし現実はそうではなく、二宮さんは素直な態度で目を伏せた。

「そうだが」

 思わず言葉を失う。私の知っている二宮匡貴は、もっと否定したり、怒ったりする男だ。彼をこうさせているのは、私だとでも言うのだろうか。完全に黙り込んだ私を見切ったように、二宮さんは「もういい」と言うと手元の書類に戻ってしまった。私は今、恋愛の駆け引きをされていたのだろうか。