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「俺はもう苦しい。お前を好きなのをやめたい」

 佐久早がそう言うのは、ひとえに彼の恋愛経験の少なさから来るものかもしれなかった。佐久早はあまり恋をしたことがない。だから私を好きになっていること自体がイレギュラーなのだ。また、佐久早の中途半端は許さない性格が余計事態を悪くしているのだろう。佐久早は、好きになったら恋愛に全力を注いでしまう。しんどくなってしまうくらいに。

「何か酷いことをすればいい?」

 私は佐久早に自分を嫌わせようと考えた。佐久早に好かれていようがいまいがどちらでもいいのだ。言い方は悪いが、佐久早が勝手に好きになったのだから。私が何かしなければ佐久早が自分で諦められないだろうことにもまた、気付いていた。

「いい。お前はどうせできない。そういう奴だ」

 佐久早は苦々しげに言う。私のことを買い被りすぎではないかと思った。私はしようと思えば佐久早に酷いことだってできる。佐久早は好意のフィルターがかかっているから、私のことをいいように捉えすぎているのだ。

「じゃあもう私に言われても何もできないよ」

 私は降参したように手を上げる。佐久早は忌まわしげな瞳でそれを見つめた。実際、佐久早が私に言ったのは解決を求めてではなかったのだろう。もしかしたら、じゃあ付き合おうと言うのを期待していたのかもしれない。だが私は佐久早のことを特別に見ていなかったし、佐久早が片思いを拗らせたらどうなるのか興味があった。佐久早は多分私のそんな所が好きで、憎いはずだ。