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「好きだよ」

 そう言った幸郎に、私はたじろいだ。彼のまっすぐな視線を受け止める余裕がなかったのだ。

「だって、全然そんな素振りなかったじゃん」

 言い訳のように口にした私に、幸郎はしみじみと目を伏せた。

「好きです、って今更言うのも変な話だよね。だって俺は出会った時から名前ちゃんのこと好きなんだもん。前触れとかがなかったのはそのせいだよ。俺にとっては、名前ちゃんを好きでいることが俺であることなんだ」

 幸郎が好きらしい気配を見せなかったのは、最初から私を好きであったから。私に対する態度に、何の変化も起こるはずがないのだ。納得しながらも、そこまで愛されているという事実に胸が熱くなった。私はこれほとまっすぐに愛を向けられるのは初めてだった。つい、幸郎の愛の深さを知りたくなってしまう。

「じゃあ、私がここでフったとしても……?」

 恐る恐る尋ねると、幸郎は穏やかに頷いた。

「うん、好きでい続けるよ。気持ち悪い?」

 そう言いつつも、表情は柔らかなままだ。幸郎は自分の行動が周りから見て気持ち悪いのではないかと思っていても、自分ではちっとも気にしないのだろう。

「い、今のはどれくらい私のこと好きなのか試しただけ」

 試す、というある意味失礼な行為をした私を、幸郎は簡単に許した。

「そっか。伝わった?」
「伝わった……」

 幸郎は「よかった」と笑う。試されても怒らない、気持ち悪いと思われても気にしない幸郎が何に心を動かすのか、知りたいと思ってしまった。

「改めて、よろしくお願いします」

 頭を下げると、「こちらこそ」と幸郎が笑う。私のこの気持ちは、多分間違いではない。