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「ねーねー、この後どっか寄って行かない?」

 と五条さんが言うのは合同での任務の後――ではなく呪霊を祓っている真っ只中である。五条さんに同伴者が必要なはずもないのでこの組み合わせは五条さん自身が仕組んだものなのだろう。何故だか私は五条さんに気に入られ、事あるごとに絡まれているのだ。

「五条さんがいると彼氏できません!」

 私が嘆くと、五条さんは呪霊を完全に祓ってこちらに向き直った。その表情はどこか真剣である。

「彼氏って一人だけでしょ? その枠が埋まってるってことは僕が彼氏なんじゃない? 作る必要ないよ」
「私達そういう仲じゃないでしょう」

 私は五条さんに一度も、好きだとか付き合ってほしいとか言われたことがない。決して言ってほしいというわけではないのだが、彼氏だと主張するならあるべきだろう。五条さんは近くの壁にもたれ、私を見下ろした。

「行動が必要なら僕はキスもセックスもできるよ。名前は? 今から僕が押し倒したら殴って逃げる?」

 その言葉はただの問いかけではなく、脅しの意味も含んでいるだろう。私の返答によっては五条さんは今この場で押し倒すこともあるに違いない。私は言葉を選びつつ、しかし素直に目を伏せた。

「……殴ったって、五条さんには敵わない」
「それは諦めてるの? 受け入れてるの?」

 五条さんの声が廃ビルに響く。どちらなのかは私にもわからなかった。敵わないとわかっているから抵抗しないのか、抵抗したくなくてしないのか。その境界線は酷く曖昧だ。

「どっちにしろ僕達はもう付き合ってるよ。記念日は今日でいい」

 五条さんは漸く普段の調子に戻って出口へ向かって歩き出した。酷く一方的な付き合いの切り出し方だ。なのに悪くないと思う私もまた、存在した。