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「何で?」

 私は手の中のぬいぐるみを見つめ、声に出した。飛雄が買ってきただろうそれは、海外に行ったお土産だということはわかっている。問題は何故私に、土産を買ってこようと思ったかだ。

「遠征で、主将が奥さんに毎回お土産選んでるから」

 飛雄は言い訳をするように言った。違和感を噛み殺すように私は口を開く。

「それで飛雄もみんなにお土産あげようって?」
「いや、買ってきたのはお前だけだ」

 今度は自信溢れる言い方だった。その一言で余計に私は飛雄がわからなくなってしまう。主将が奥さんにあげるのを見て私にあげるなら、私は飛雄にどう思われているのだろうか。ただお土産をあげるなら、他の人にも配ればいいだけだ。私の疑問を見抜いたように、飛雄が追い討ちをかけた。

「俺があげるとしたらお前だろ」

 飛雄にとって、お土産をあげる人選の最初にくるのが私らしい。家族でも会社の人でもなく、だ。

「……もしかして、飛雄私のこと奥さんだと思ってる?」
「いや、思ってねぇけど」

 何でだと言いたげな視線にこちらこそ何故だと返したくなる。私にお土産をあげるなら、せめて主将が奥さんにあげるのを見て買おうとしたエピソードはしまっておいてほしかった。とはいえ、何を言おうと飛雄には伝わらないのだろう。飛雄は変な所で鈍感だし、恋愛を仄めかして疎遠になるのも嫌だ。私はぬいぐるみを抱え直した。

「とりあえず、好意として受け取っておく。これから頑張って」

 随分上から目線になってしまったが、飛雄は受け入れたようだった。

「? おう」

 その「頑張って」が恋愛の意味だなどとは、思ってもいないのだろう。